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かぎ針編みと棒針編みの違いって?
「編み物」という大きなくくりの中には、さらに細分化された編み物ジャンルがあります。
かぎ針編み、棒針編み、アフガン編み、レース編みなど、編むために使う道具が違ったり、それにともない編み方が違ったりします。
今回は、これらの中で愛好家が多い“かぎ針編み”と“棒針編み”にスポットを当てて、いろいろな角度から比較をしていきます。
まずはじめに触れておきたい“かぎ針編み”と“棒針編み”の大きな違いは、使う道具。
かぎ針編みは、針先にフックのついた「かぎ針」1本を使って編んでいくのに対し、棒針編みは、基本的に2本の棒針を使って編んでいきます。
使う道具も異なる2つの編み物には、さらにどんな違いがあるのか、ここから一つひとつ深掘りしていきます。
かぎ針編みと棒針編みの編み方比較
作り目
かぎ針編みと棒針編みは、どちらも「作り目」をしてから編みはじめるのが一般的です。
棒針編みは、作り目に必要な毛糸をあらかじめ引き出しておいて、引き出した毛糸も使いながら目を作っていく「指でかける作り目」が基礎的な手法として知られています。
かぎ針編みは糸端を少し残して必要な数のくさりを編み作り目とする「くさりの作り目」や、糸端を丸めて輪を作り、そこに目を編んでいく「輪の作り目」がよく使われます。
作り目をしたとき、棒針編みは作り目がすべて棒針にかかって並んでいる状態であるのに対し、かぎ針編みの作り目は針につながっているのは最後の目のループだけ、という状態になります。
このように作り目の状態が異なることで、その後の編み方の違いを予感させますね。
【作り目比較】
棒針編み:作り目のループがすべて棒針にかかり、並んでいる。
かぎ針編み:作り目のうち、最後の1目のループだけが針にかかっている。

編み方
棒針編みでは、針に連なってかかっている作り目のループに、もう一本の針を入れて糸をかけ、編み進めていきます。
編み終えた目のループは、はじめかかっていた針からもう一方の針に移動します。
すべて編み終わると、作り目がかかっていた針には目がなくなり、もう一本の針にすべての目がかかった状態になります。このプロセスを繰り返しながら編んでいきます。
すべて編み終えて目をとじるまでは、どちらかの針に目のループがかかっている状態です。
そのため、針からループが外れて目を落としてしまうこともあります。
かぎ針編みの場合、作り目は作り目として編み地が完成しています。
針にかかっている最後の目のループを針から外して糸を引っ張らなければほどけることがないため、棒針でいうところの「目を落とす」という概念はありません。
すでに完成している作り目に針を入れて編んでいくことになり、どこに針を入れて(どの糸を拾って)編んでいくかが編み地に影響を与えます。
棒針編みの作り目のループは非常に見やすく、どのように針を入れて編めばよいかが明解ですが、かぎ針編みは、いろいろな糸の拾い方ができる反面、どこを拾えばよいか分かりにくいときもあります。
【編み方比較】
棒針編み:編み目をとじるまで目を落とす可能性がある。棒針にかかった目は見やすく、拾う位置が明確。
かぎ針編み:1目編むごとに編み地が完成し、目を落とす心配がない。拾う位置が分かりにくいことがある。

ほどき方
棒針編みは、すでに編み終えた目に間違いを発見した場合、その地点に至るまで、1目ずつもう1本の棒針に目を移しながらほどいていくことになります。
編み間違いがかなり前の段だった場合に、すべての目を針から外して糸を引っ張り、何段も一気にほどいてから、間違いのあった段の近くで目をすべて拾い直すやり方も見かけますが、これは初心者にとって現実的ではありません。
たとえ1目ずつほどいていったとしても、もう1本の針に目を移した際にループの向きが変わってしまったり、複雑な模様編みであればほどいて戻るより、最初から編み直したほうが早い場合もあります。
また、目を落としてしまった場合の修復も初心者には難しいため、棒針編みでアクシデントが起きたときのリカバリーは難易度が高く、ある程度の経験やスキルが求められます。
一方、かぎ針編みは、編み地をほどくのが非常に簡単です。
最後に編んだ目のループをかぎ針から外し、間違った箇所まで糸を引っ張ってほどいていけばよいので、途中の段に戻ってやり直す場合もスキルはいりません。
だいぶ前の段に編み間違いを見つけてしまうのはショックですが、編み直しをすると決めたら、初心者さんも玄人さんもひと思いにほどくだけです。
経験者の力を借りなくても自分自身でほどいて修復できるという点で、かぎ針編みは気軽にチャレンジできる編み物だと感じられるのではないでしょうか。
【ほどき方比較】
・棒針編み:編み間違いがあると、1目ずつもう一本の針に移しながらほどいていく必要がある。目を落としたときや編み間違いの修復は難易度が高い。
・かぎ針編み:編み間違っても、ほどくのが容易。糸を引っ張って一気にほどいて編み直すだけなのでスキルは不要。
かぎ針編みと棒針編みの編み地比較
編み地の特長
棒針編みの編み地は、比較的薄手で柔らかく、伸縮性のあるものが多いです。
特に、セーターの襟やそで口に使われるゴム編みは、棒針編みならではの高い伸縮性を持つ編み方です。
リブとも呼ばれるゴム編みは、伸縮性だけでなくスマートな見た目も魅力です。
また、メリヤス編みなどでは、編み地の裏表を返しながら往復編みをしたときと、毎段同じ方向に輪編みをしたときで、編み地の見た目が変わらないところが、作品を作るうえでのメリットと言えます。
かぎ針編みの編み地は厚みが出やすく、伸縮性の少ないしっかりとした仕上がりになります。
ポピュラーな編み方であるこま編みは、伸びにくい編み地がバッグなどの作品に最適です。
かぎ針編みでは、裏表を返しながら往復編みをしたときと、毎段同じ方向に輪編みをしたときとで編み地の見た目が同じになることはありませんが、編み地の裏側に魅力的なテクスチャーが生まれることもあり、編み地の裏表どちらも作品の表として使える面白さがあります。
【編み地比較】
棒針編み:薄手で伸縮性が高め。メリヤス編みなどは、往復編みと輪編みとで編み地の見た目が変わらないというメリットがある。
かぎ針編み:厚みがあり伸びにくい。往復編みと輪編みで編み地の見た目が異なり、編み地の裏に魅力的なテクスチャーが生まれることもある。

編まれる作品の傾向
棒針編みは、伸縮性のある編み地をいかした作品が多いのが特徴です。
特に、ゴム編みを用いた伸縮性のある編み地は棒針編みならではの大きな魅力で、棒針編みのセーターやニット帽、靴下などは体にフィットするため着心地がよく、実用的でもあります。
また、棒針編みパターンとして数多く見られるショールなどは、棒針編みにしか出せない薄手の編み地が使いやすく、軽やかな仕上がりがビジュアルとしても素敵です。
最もよく目にするメリヤス編みの編み地は、市販されている既製品のニットアイテムと同じ編み地であることから、スタイリッシュな印象があり、普段着の延長として身につけやすいのも棒針編みのよいところです。

かぎ針編みは、目を閉じる作業が不要なため、作品づくりに自由度が高く、小物から大物まで幅広いジャンルの作品が見られるのが特徴です。
平面的な編み地だけでなく、円や円柱から花びらのような造形まで、自在に多様な編み地を生み出すことができ、コサージュやアクセサリー、キッチンアイテムなどの小物が編みやすいのも魅力です。
また、伸縮性のないしっかりとした編み地をいかしたバッグや、立体を編みやすい特性をいかしたあみぐるみのような作品にも、かぎ針編みの良さが表れています。
かぎ針編みのショールやファッション小物などにも素敵なパターンが数多く見られるほか、モチーフつなぎや方眼編みのレース模様などは、ボヘミアン、フォークロアを彷彿とさせるノスタルジックな雰囲気を楽しむこともできます。
【編まれる作品比較】
棒針編み:伸縮性のある薄手の編み地をいかしたウェアやショール、ソックスなどのファッションアイテムが多め。着心地がよくスタイリッシュな仕上がりが魅力。
かぎ針編み:しっかりとした編み地や立体の編みやすさをいかし、バッグやあみぐるみ、ファッション小物など幅広い作品が編める。多彩な作品づくりができるのが魅力。
かぎ針編みと棒針編みの使用糸比較
糸使用量
棒針編みは、その薄手の編み地からも察することができますが、比較的少ない糸量で大きめの編み地をつくることができます。
そのような観点から、セーターなどの大物ウェアも編みやすいですね。
対するかぎ針編みは、しっかりとした厚手の編み地になる分、糸の使用量も多めです。
そのため、コットンや麻など重さのある素材の糸を使用するときは、作品が重くなりすぎないよう、完成サイズを大きくしすぎないなどの工夫が必要な場合もあります。
編み地やデザインによっては糸使用量はかなり変わってきますが、分かりやすい具体例として、棒針のメリヤス編みと、かぎ針のこま編みでそれぞれ同じサイズの編み地を編むと、こま編みのほうが糸使用量が多くなります。

実験的に、同じ毛糸を使って、10cm四方の正方形の編み地をメリヤス編みとこま編みで編んでみました。
糸使用量は、メリヤス編みが4g(約12.8m)、こま編みが5.8g(約18.56m)という結果になりました。
この比較からは、棒針編みよりかぎ針編みのほうが、糸を45%多く使用していることが分かります。
【糸使用量比較】
・棒針編み:薄手の編み地になる分、糸使用量も少ない。
・かぎ針編み:厚手の編み地になる分、糸使用量が多い。棒針より45%多いケースも。
使用糸の種類
棒針編みは、ウェアなど身につけるアイテムに非常にマッチしていることが、ここまでの経緯からも分かります。
ニットのセーターや帽子などは肌寒いシーズンに出番が多いアイテムです。
弾力があって柔らかいウールやアルパカなどの冬糸は棒針でとても編みやすく、世の中の作品を見渡しても、棒針編みに用いる糸はウールが主流と言えそうです。
もちろんサマーニットもあり、柔らかそうなコットン糸などは、棒針編み作品でもよく見かけます。
ただ、ハリがあって硬めの麻糸などは、棒針で編むには滑りやすく、ウールと比較すると編みにくいことがあるので、編んでいる途中で目を落とさないよう注意が必要そうです。

かぎ針編みは、針先のフックと、目を落とすという心配がないおかげで、比較的どんな糸でも編みやすい傾向にあります。
細くて柔らかい糸でも、硬い麻ひもでも、そして梱包用テープのような変わり素材であっても、ひも状になっているものであれば基本的に編んでいくことができます。
糸の太さや硬さによっては向き不向きがあるため、快適に編める糸であることは重要ですが、かぎ針を使って編む、という操作においては、使用できる糸の範囲は非常に広いと言えます。
編み地を自在に作ることができ、なおかつ様々な糸を使用できるかぎ針編みは、作品に個性を出しやすく、自分らしいクリエイティブを表現できる楽しさにあふれています。
【使用糸の種類比較】
棒針編み:身につけるアイテムを編むことが多く、柔らかく弾力のある糸のほうが編みやすいため、ウールなどが主流。
かぎ針編み:比較的使用糸を選ばず、快適に編める糸の範囲が広い。編み地づくりの自在さと相まって、多様な素材で個性的な作品を生み出しやすい。
かぎ針編みと棒針編みの中断性とポータビリティ
中断
棒針編みは、針に目がかかっている状態なので、段の途中で編むのを中断することにより、中断前後の編み目が緩んだり、テンションが変わってしまわないよう注意が必要です。
また、複雑な模様編みなどの場合、中断することで編み間違いが生じないよう、中断する位置やタイミングを工夫する必要があります。
中断する際は、針から目が外れてしまわないよう、針先にストッパーをつけておくと安心です。
かぎ針編みは1目ごとに編み地が完成していくので、棒針編みに比べると中断しやすいですが、やはり複雑な模様編みの途中では、編み間違いを避けるため、切りの良いタイミングで中断したほうがスムーズです。
中断している間は、不意に糸が引っ張られて端からほどけてしまわないよう、最後の目のループを長めに引き出しておくか、ステッチマーカーなどでとめておくと安心です。
【中断比較】
・棒針編み:中断により編み目が緩んだり、テンションが変わったりしないよう注意。編み間違いを避けるため、中断するタイミングに気をつける。
・かぎ針編み:中断はしやすいが、複雑な模様編みをしているときは、切りの良いタイミングを見計らったほうがスムーズ。

ポータビリティ
棒針編みは、ニットウェアやショールなど大きめの作品が多く、長い棒針を使用する場合は持ち運びにかさばるかもしれませんが、輪編みのような柔軟性のある針であれば、丸めてコンパクトにすることができて便利です。
移動中に針が動いて目が外れたりしないよう、ストッパーをつけておく必要があります。
かぎ針編みは、かぎ針自体が短めで、かぎ針編みの作品には小物も非常に多いことから、持ち運びに向いています。
中断もしやすいので、編みかけ作品を持ち運んですき間の時間に少しずつ編み進めるにはぴったり。中でも、毎段同じ法則性で編める作品はモバイル編みにおすすめです。
【ポータビリティ比較】
棒針編み:輪針などはコンパクトになるので持ち運びやすい。目が外れないようストッパーが必要。
かぎ針編み:かぎ針は短く、小物作品も豊富なため持ち運びやすい。中断しやすいのでモバイル編みに適している。

振り返りとまとめ
ここまで比較してきた、かぎ針編みと棒針編みの違いを振り返り、以下の表にまとめてみました。
かぎ針編み | 棒針編み | |
作り目 | 作り目の最後の1目のループだけが針にかかっている。 | 作り目のループがすべて棒針にかかり、並んでいる。 |
編み方 | 1目編むごとに編み地が完成し、目を落とす心配がない。拾う位置が分かりにくいことがある。 | 編み目をとじるまで目を落とす可能性がある。棒針にかかった目は見やすく、拾う位置が明確。 |
ほどき方 | 編み間違っても、ほどくのが容易。糸を引っ張って一気にほどいて編み直すだけなのでスキルは不要。 | 修復は難易度が高い。編み間違いがあると、1目ずつもう一本の針に移しながらほどいていく必要がある。 |
編み地 | 厚みがあり伸びにくい。往復編みと輪編みで編み地の見た目が異なり、編み地の裏のほうが魅力的なこともある。 | 薄手で伸縮性が高め。メリヤス編みなどは、往復編みと輪編みとで編み地の見た目が変わらないのがメリット。 |
編まれる作品 | しっかりとした編み地や立体の編みやすさをいかし、バッグやあみぐるみ、ファッション小物など幅広い作品が編める。多彩な作品づくりが魅力。 | 伸縮性のある薄手の編み地をいかしたウェアやショール、ソックスなどのファッションアイテムが多め。着心地がよくスタイリッシュな仕上がりが魅力。 |
糸使用量 | 厚手の編み地になる分、糸使用量が多い。 | 薄手の編み地になる分、糸使用量も少ない。 |
使用糸の種類 | 快適に編める糸の範囲が広い。自由度の高い編み地と多様な素材で個性的な作品を生み出しやすい。 | 身につけるアイテムを編むことが多く、柔らかく弾力のある糸のほうが編みやすいため、ウールなどが主流。 |
中断 | 中断はしやすいが、複雑な模様編みをしているときは、切りの良いタイミングを見計らったほうがスムーズ。 | 中断により編み目が緩んだり、テンションが変わったりしないよう注意。編み間違いを避けるため中断タイミングにも注意。 |
ポータビリティ | かぎ針は短く、小物作品も多いため持ち運びしやすい。中断しやすいのでモバイル編みに適する。 | 輪針などはコンパクトになるので持ち運びやすい。目が外れないようストッパーが必要。 |
最後に
以上は、かぎ針編みに没頭している私から見た、かぎ針編みと棒針編みの徹底比較でした。
今でこそかぎ針編みばかりしていますが、私にとっての初めての編み物は、母に教えてもらった棒針編みでした。
棒針編みは、目を落としたり、目数が合わなくなったりしたとき、いつも母にレスキューしてもらっていたためか、自分ではできないような思い込みもあって、きちんと習得する機会を逸し、初心者のまま現在に至っています。
今回の徹底比較では、自分自身が棒針編みをするときに難しく感じている点や棒針編みへの憧れ、かぎ針編みがとっつきやすかったポイントや魅力なども実感として盛り込まれています。
編み方については、ちょっとかぎ針編みびいきなところがあるかもしれませんが、一個人のレポートとしてご参照ください。
棒針編みの楽しさもよく分かりますので、いつかじっくり向き合ってみたいと思っています。
それぞれに違った魅力のあるかぎ針編みと棒針編み。
どちらも無心になって楽しめる編み物です。
両方もしくは片方は未経験という方も、機会がありましたらぜひトライしてみてください。
